バイリンガリズムと知能について(1)均衡理論

バイリンガル、英語も入れてトリリンガル、台湾語や客家語もできたらマルチリンガルな子どもたちを育てるさくら会のママたち。あんまりたくさんの言葉を教えると子どもが混乱する?バカになる? いろんな疑問を抱きながら子育てを頑張っていらっしゃる方へ、バイリンガリズムと知能・認知に関する理論をご紹介します。 


1.均衡理論(Balance Theory) 

バイリンガリズムと知能・認知との関係を示す考え方のひとつであり、カミンズ(j. Cummins)によって、①分離基底言語能力モデルと②共有基底言語能力モデルの2つが示されています。 研究の初期では、バイリンガルの運用能力はモノリンガルより劣っている、あるいは劣るだろうと考えられていました。 その理由は、バイリンガリズムは秤の上でバランスを取っている状態であるとみなされ、第二言語が増えると第一言語が減っていくと考えられたからです。 


①分離規定言語能力モデル(separate underlying proficiency model) 

 カミンズはこれを頭の中の二つの風船によって説明しました。頭の中にモノリンガルは大きくふくらんだ風船が一つあり、バイリンガルは小さい風船が二つあると考えられました。 頭のスペースは限られているので、一つの風船が膨らめば、もう一つの風船はしぼんでしまう状態と考えられました。  このような秤や風船の説は多くの人(親、教師、政治家、公的機関)に直感的に支持され、風船のイメージがバイリンガルの機能をもっともうまく表していると無意識のうちに受け入れられたようです。

 このモデルは、2つの言語は転移することなく別々に機能し、各言語には「限られた」容量しか用意されていないとしています。一見、理に適っているように見えるこの理論ですが、まったく0から赤ん坊が母語を習得する際と、すでに母語での言語の能力を持っている大人が第二言語を習得する際とを考えればわかりますが、学び方はまったく違います。赤ん坊は一つ一つの単語を覚えていかなければなりませんが、大人はいくつかの単語を一つのカテゴリーとしてまとまって覚えたほうが効率が高いでしょう。 また、すでに日本語で算数を学んだ子どもが中国語でそれを一から学び直す必要はありません。日本語で学んだ知識は中国語でも応用されるからです。

 そして、分離基底モデルの矛盾を補うよう考えられたのが、次に示す共有基底言語能力モデルです。

 ②共有基底言語能力モデル(common underlying proficiency model)

  二つの言語がまったく別々におさめられているのではなく、ひとつの言語で学んだ内容はもう一つの言語に転移できると考えました。Cummins(1980、1981)は二つの言語能力を氷山にたとえ、根底にある共有する能力の存在を強調しました。 つまり、表面的には二つの言語を別々に使っていても、底の方では様々な知識や能力、経験等を共有しているということです。

 バイリンガリズムの共有基底言語能力モデルの6つの点。 

①人が使用している言語の種類に関わらず、話すこと、読むこと、書くこと、聞くことを伴う思考は同じ中央装置から発している。

②人は2つ以上の言語を用意に収容する能力を持つので、バイリンガリズムやマルチリンガリズムは可能である。

③情報処理技能や教育の成果は、一つの言語同様2つの言語を通して向上させられる。

④教室での認知的な負担に取り組めるようになるには、子供の教室で使っている言語が十分に発達していなければならない。 

⑤第一言語または第二言語で話し、聞き、読み、書くことは、認知システム全体を発達させる助けになる。しかし、子供が発達の不十分な第二言語で活動することを強要されると、そのシステムは裁量の状態では作用しない。

⑥片方ないしは両方の言語が十分に機能しない場合、認知機能や学校の成績はマイナスの影響を受けることもある。(Baker 1996をもとに要点をまとめた) 

桜会へようこそ

このHPは台中近郊に住む国際結婚日本人女性を対象とする“桜会”が運営しています